やよいブログ

小泉やよい ● Vocal & Guitar / Songwriter / ボサノヴァ弾き語り

2023年夏の読書 (1) ラジオと戦争 放送人たちの「報国」

この夏は、落ち着いて読書をしようと思ってます☕

最近読んでいる本はこちらの二冊。

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左:『ラジオと戦争 放送人たちの「報国」』 著: 大森淳郎、NHK放送文化研究所

右:『曲がった鋤』 著: イタマール・ヴィエイラジュニオール 訳: 武田千香、江口佳子

 

『ラジオと戦争 放送人たちの「報国」』は、日本の戦時下におけるラジオ放送に関するノンフィクション。

『曲がった鋤』は、ブラジルの現代文学作品。奴隷制度の影響が色濃く残る地域の農場を舞台に繰り広げられる物語です。

 

わたしは普段、本を図書館で借りることが多いのですが、この二冊はじっくり読みたかったから、購入して手元に置いています。

日本の戦時下のラジオ放送と、ブラジルの奴隷制度。

ぼんやり生きているわたしには知らないことばかりで、どちらのテーマも、各々の国の社会に大きな影響を与え、その余波は現在も続いているということを、二冊の本から教えられ、自分の認識を改めているところです。

どちらの作品もとっても素晴らしいので!感想をブログに書きたくなりました。

まぁ、大したことは書けませんが (;^ω^)

 

『曲がった鋤』はまだ読んでいる途中です。ブラジル特有の文化や自然の描写、ひとつひとつの場面をイメージしながら、ゆっくりと読み進めています。こちらの感想はまた後日。

今回は『ラジオと戦争 放送人たちの「報国」』の感想を書きたいと思います。

 

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概要はプレスリリースをご覧ください ↓

 

この本は、戦時ラジオ放送についての本です。

日本の放送事業が始まったのは1925年のこと。そこから、満州事変 (1931年)、日中戦争 (1937年~)、太平洋戦争 (1941年~) 、終戦 (1945年)、戦後GHQによる占領を経て、1952年に占領が終了するまで。

以上の期間のラジオ放送について検証し、当時の放送に携わった人々の姿を描いています。

(2023年6月26日に発売されたばかりの作品です。)

 

率直に言って、すごい本でした。。。

まずはその分厚さ!全部で573ページ。

本の厚さをメジャーで計ったら、3.7cmありました。

これだけのボリュームだから、ゆっくり読もうと思ってたのだけれど、「序」からぐいぐい引き込まれて、全8章、一気に読んでしまいました。。

 

「序」は、この本の地図とか羅針盤みたいなもので、この本に貫かれている著者の姿勢と、何を書こうとしているのかがはっきりと示されます。

その上で、ひとつひとつ、章を読み進めて、理解を積み重ねていく。

読んでいくうちに、どの章も不可欠なもので、この本の分厚さの意味というか、これだけのページ数が必要なんだということが分かってきました。

 

「序」の一部が、プレスリリースや本の帯に掲載されていますので、その部分を引用しますね。

 ……夜空に浮かぶ月の表面は鏡のように平らに見えるが、実際は数千メートルの山々がそびえるクレーターだらけのでこぼこの世界だ。戦前・戦中の日本放送協会の歴史を遠望すれば、軍や政府に支配された、非自立的で没個性の、のっぺらぼうのような組織の姿しか見えない。でも、もっと接近して見れば、放送現場の絶望や葛藤、あるいは諦念といった感情の起伏が見えてくるのではないだろうか。そして政府や軍の指導を、放送現場がいつのまにか内面化し、ニュースや番組に具現化していったプロセスが浮かび上がってくるのではないだろうか。

 現在の価値観から戦時ラジオ放送を断罪しようというのではない。いわば「仕方がなかった史観」を乗り越えて戦時ラジオ放送を検証すること。戦時中のラジオが何を放送していたのか、単にその事実を羅列するのではなく、現場が何をどう考えて、あるいは考えることを放棄して放送していたのかを検証すること。それこそが重要なのではないだろうか。

 戦争協力は仕方がなかった。そこに止まっている限りは、戦時ラジオ放送の経験から学び、現在の放送に生かすことはできないだろう。(後略)

 

 ~『ラジオと戦争 放送人たちの「報国」』(著:大森淳郎、NHK放送文化研究所) 「序」より~

そう。本文を読んでいくと、まるで平面が立体になるように、上の文章の意味するところが浮かび上がってきます。

 

〔追記 2023.7.16〕NHK出版「本がひらく」のサイトで、「序」が全文公開されました。

どなたでも読めますので、この機会に是非。(ラジオ少年、高橋さんのエピソードから始まるところがグッとくるのです...。)

 

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【注意!】ここから先、もしかしたらネタバレを踏んでしまうかもしれないので、、、この本をまっさらな状態で読みたい!という方は見ないようにしてくださいね。

できるだけネタバレしないようにとは思っているのですが、どこからがネタバレなのか、判断が難しかったりしますので。。。

ご注意くださいませ m(_ _)m

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これくらい空白をとればいいかな?

ではでは、続きです(*´ω`*)

 

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戦時中のラジオ放送に関する資料の多くは、終戦後、連合軍の進駐前に焼却処分されたそうです。(映画『日本のいちばん長い日』(監督:岡本喜八) にも資料を燃やしているシーンがありましたね。)

それでも残った資料が存在していて、まとめられ保管されてきました。

それらの資料を緻密に「検証」することで (めちゃくちゃ緻密です!)、

「(放送原稿の) 編集」「(録音放送の) 構成」「番組の制作」「アナウンス」の現場で当時何が行われていたのか、その目的と、目的にかなうように効果を上げるための恐ろしいほどの巧みさが現れてきます。

著者は決して大袈裟な物言いをしたり断罪したりはしないのだけれども、残った資料からここまでのことが分かるのだという、その静かな凄みに圧倒されます。

 

一方で、著者が「検証」を行う際に対象に向ける厳密な眼差しは、この本を書いている著者自身にも向けられているのだろうとも感じました。自分を律するようにして書いているなって。

時折「そういうお前ならどうしたんだ」と内省する著者に対して、わたしは信頼感を持って読み進めることができました。

 

そして、この時代の中で放送に携わった人達がどのように生きたのか、

資料をもとに、様々な人物像が具体的に描かれていくのですが、、、

うまく言えないんですけど、すごく単純に言うと、、、人間って複雑だなって思いました。。

その複雑さは、著者自身が長年ドキュメンタリー番組を作ってきたディレクターだからこそ、生きる時代は違っても同じ「放送人」だからこそ、描き出せたことなのだろうとも思いました。

「軍の命令だったんだから仕方なかったんだ」という見方だけで済ませてしまう向きもあるけれど、それは事実から目を背けることだ、ということも明らかにされます。

印象に残った言葉がありました。

人は時代の中でしか生きられない。

「仕方がない」という側面もあるけれど、決してそれだけではなかった。

 

この本に書かれていることは、過去のことだけれど、今にも繋がっていて。

「自分ならどうしたのか」という著者の問いは、今を生きるわたしたちみんなの問いでもあると思います。

そして、わたしたちは日々メディアの様々な言葉を目にしながら生きているけれど、

その言葉は、誰が、いつ、どんな状況下で、誰に向けて、何の目的で、発しているものなのか、

それらを踏まえた上で言葉を理解することが大切なんだな、とも思いました。

 

読み終えて、なんだか、車窓からひと時も目を離せない列車の旅をしたような気持ちです。

この本にはとても大切なことが書かれていると思ったから、途中から鉛筆を手に、重要だと思う言葉に線を引きながら読みはじめたのだけれど、全ての言葉に線を引いてしまいそうになってしまって!

文章を読んでいて、頭だけでなく心の方も忙しくて、「えー、マジで!」とか「うそ...」とか「いやいやいやいや」とか、思わず呟きながら読んでました(;^ω^)

573ページの、とても長い旅ではあります。

でも、多くの人に読んでほしいなって素直に思います。

 

 

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長くなりましたが、以上になります。

 

次は『曲がった鋤』ですね。

2021年のブラジルで最も読まれた本だそうです。この作品にインスパイアされて作られた音楽作品もあります。とっても美しい曲です。。

少し時間がかかるかもしれないけど、読み終わったら感想を書きたいと思います。

 

〔追記 2023.12.22〕

少しどころか沢山時間がかかってしまいましたが!感想を書きました。

 

みなさんも良き読書ライフを!🍧